薬剤師は専門職のため比較的給与が高い職業です。残業や休日出勤が少ない職場が多いので、家庭を持つ女性でも働きやすいというメリットもあります。近年、薬剤師の人数は増加傾向にあり、人気の職業となっているため、興味を持っている人も多いのではないでしょうか。この記事では、薬剤師になる方法から、実際の仕事内容や年収、薬剤師の魅力や就職先について解説します。
薬剤師になるには?
薬剤師は薬を取り扱う専門職です。患者の病気や健康、ときには命にも関わる重要な仕事のため、比較的給料が高く、待遇面でも恵まれています。薬剤師=女性というイメージを持っている人が多いかもしれませんが、男女の割合は女性が6割で男性が4割です。女性の比率が多いものの、男性でも活躍できる職業と言えるでしょう。就業者数は毎年増加傾向にあり、他の医療系の職種と比べると残業や休日出勤、夜間勤務が少ないため、家庭を持った女性でも働きやすく人気の職業でもあります。
しかし、薬剤師は誰でも簡単になれる職業ではありません。人命に関わるような重責を担うため、国家資格が必要になるのです。社会人になってからでも、薬剤師を目指すことはできますが、大学の薬学部で6年間学ぶ必要があるため、仕事をこなしながら資格を取得するのは難しいでしょう。どうしても薬剤師になりたい場合は、仕事を辞めて大学で学び直す覚悟が必要です。以下に薬剤師になるための国家資格(薬剤師免許)を取得するまでのステップを説明します。
1. 大学で6年間の薬学課程を履修する
薬剤師になるためには「薬剤師国家試験」に合格する必要がありますが、その試験を受けるためには、原則的に大学の薬学部で6年間の薬学課程を終了しなければなりません。例外的には、2017年(平成29年度)までに、大学の4年制の薬学部へ入学していれば、卒業後に専門の大学院で2年間の薬学課程を履修することで、受験資格を取得することもできます。
2. 薬剤師国家試験に合格する
6年間の薬学課程を履修した後は、毎年2月~3月に行われる「薬剤師国家試験」に合格しなければなりません。合格率は年度によって変動がありますが、だいたい60%~80%台を推移しています。合格率は比較的高いようにも見えますが、6年間も薬学部で学んだ人たちが受験していることを考えると、毎年10%~30%台の人が不合格となる難しい試験であると言えます。
3. 薬剤師免許を取得する
「薬剤師国家試験」に合格すれば、薬剤師になる資格を取得したことになりますが、薬剤師として仕事に従事するには、厚生労働省が管理する薬剤師名簿への登録が必要になります。薬剤師名簿への登録は、住所地を管轄する保健所などに申請を行います。申請後、約2カ月で薬剤師名簿への登録が完了し、薬剤師免許が交付されます。このようにして、晴れて薬剤師として働くことができるようになります。
薬剤師の仕事内容とは?
薬剤師の仕事といえば、病院や薬局で医師の処方せんに従って、薬を出してくれる仕事を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、薬剤師の仕事は多種多様で、働く職場によっても異なってきます。ここでは、薬剤師の主な仕事と職場ごとの仕事内容の違いについて説明します。
薬剤師の主な仕事
薬剤師の仕事は多種多様ですが、主な仕事は以下の5つです。
調剤
調剤とは医師の処方せんに従い薬を調合することです。医薬分業が進み、薬の調剤と販売は病院ではなく、薬の専門家である薬局と薬剤師に任されるようになってきました。これは、病院と薬局の機能を切り離すことで、医療ミスを防ぎ、患者に適切な薬を処方することにつながっています。薬剤師の重要性はますます大きくなっているのです。
服薬指導
服薬指導とは患者に薬を出すときに、薬の効能と飲み方や注意点を説明することです。一方的に説明するだけではなく、コミュニケーションをとることも重要です。患者からの疑問を聞き出して、わかりやすく答えることで、正しい方法で薬を服用できるように指導する役割も担います。
薬歴管理
薬歴管理とは患者が服用した薬の服薬記録を照合して、薬の重複や併用による副作用を防いだり、アレルギーの有無を確認し適切な薬かどうかを判断したりする作業のことです。患者が複数の病院に通院した場合、それぞれの医師が処方せんを出すことになり、薬の飲み合わせなどの問題が発生することがあります。薬局では患者ごとにカルテを作成しているので、かかりつけの薬局であれば、患者が服用している薬を把握でき、適切な対応をとることができます。
疑義照会
疑義照会は医師の処方せんに疑問がある場合に、医師に問い合わせを行うことです。優秀な医師であってもミスをする可能性はあります。不適切な処方せんで調合した薬剤を患者に与えてしまうと、重大な医療ミスにもなりかねません。また、医師が患者のアレルギーを把握していないまま処方せんを出すケースもあり得ます。薬剤師は患者に間違った薬を与えないように、最後の砦となるのです。
医薬品の管理・販売
医薬品の管理や販売も薬剤師の仕事です。処方せんが必要な医療用医薬品は薬剤師しか販売できません。また、処方せんがなくても薬局やドラッグストアで買える一般用医薬品でも、第1類医薬品に分類される薬を販売するには薬剤師の資格が必要です。ちなみに、一般用医薬品のなかで、比較的リスクが低い第2類医薬品と第3類医薬品は、医薬品の登録販売者の資格を持っていれば販売できます。
職場別の仕事内容の違い
薬剤師の仕事は職場によって異なってきます。以下に主な職場における薬剤師の仕事の違いを説明します。
薬局
薬局では医師の処方せんに従って医療用医薬品の調剤を行い、患者に服薬指導・販売することがメインの仕事になります。薬局は医療の一部を担うため、患者ごとにカルテを作成して薬歴を管理しています。患者とのコミュニケーションをとりながら、症状や体調の変化を聞き取り、薬による副作用がないかを確認することも重要な仕事です。医師の処方せんに疑問がある場合は、医師に対して問い合わせを行い、患者に適切な薬を提供する役割を果たします。
ドラッグストア
ドラッグストアでは、医師の処方せんがなくても購入できる一般用医薬品の取り扱いがメインになります。来客の症状にあった薬の説明と販売を行い、薬についての相談を受けたり、症状により専門医への受診をすすめたりすることもあります。医薬品の他にも化粧品、日用品、食品・飲料なども扱い、大勢の来客に対応する必要があるため、接客、レジ打ち、品出し、棚卸し作業などの仕事が多くなります。ドラッグストアのなかには、薬局を併設して調剤業務を行う店も増加しています。
病院
病院や診療所では外来患者や入院患者を対象とした調剤、服薬指導、薬歴管理の他に、注射や点滴の調剤を行います。医薬品の専門家として医療の一部を担い、他の医療スタッフと連携をとりながら患者の治療にあたります。医師や看護師に医薬品の情報を提供することも仕事の一つです。また、要介護などで通院が難しい患者の在宅医療に同行して、服薬指導を行うこともあります。
製薬企業(医薬品関連企業)
製薬企業では医薬品の研究、開発、医薬品に関するデータの管理や資料の作成などを行います。また、MR(医薬情報担当者)として、病院や診療所、薬局を訪問して自社の医薬品の情報(品質、有効性、安全性など)を提供し、自社の製品を選んでもらうという仕事に従事する人も増えています。また、化粧品は薬事法で取り扱いが規制されているため、化粧品メーカーで商品開発に携わる薬剤師もいます。
行政機関
国や地方公共団体の行政機関では薬事監視員として、薬事法、感染症法、食品衛生法にしたがって、医薬品の表示、保管、適正使用についての指導を行います。保健所や研究所の薬剤を取り扱うのが一般的ですが、警察の麻薬取締官や、自衛隊の薬務官になって活躍する人もいます。
薬剤師の平均給与・年収
薬剤師の給料は比較的高いと言われていますが、実際にどれくらいの給与や年収があるのかが気になるところです。ここでは、厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査(2018年調査)」の結果をもとに、薬剤師の月収と年収、年齢別の年収をまとめてみました。
薬剤師の月収と年収
平成30年賃金構造基本統計調査の「職種別第1表」によると、薬剤師の月収と年収の平均は以下の通りです。
【薬剤師の月収と年収】
平均:月収38万円、年収544万円
男性:月収41万円、年収575万円
女性:月収36万円、年収525万円
薬剤師の1カ月の平均月収は38万円(男性41万円、女性36万円)でした。一般労働者の平均月収が31万円(男性34万円、女性25万円)なので、7万円ほど高くなっています。特に女性の場合は一般の女性労働者よりも11万円も高くなっており、薬剤師が女性に人気がある職業であることがうなずけます。年収では薬剤師の平均は544万円(男性575万円、女性525万円)になり、一般の労働者よりも100万円近く高い傾向にあります。なお、厚生労働省の調査結果には、年収は記載されていませんが、以下の計算式で求めることができます。
・年収=きまって支給する現金給与額×12カ月+年間賞与その他特別給与額
年齢別の年収
次に年齢別の年収を見てみましょう。平成30年賃金構造基本統計調査の「職種別第2表」を集計すると以下のような結果になりました。
【薬剤師の年齢別の年収】
20代:男性413万円、女性409万円
30代:男性616万円、女性536万円
40代:男性665万円、女性597万円
50代:男性687万円、女性569万円
60代:男性517万円、女性528万円
男女ともに20代では400万円台の前半ですが、30代になると男性の場合は600万円台、女性の場合も500万円を超え、いっきに年収が上がっているのがわかります。なお「職種別第2表」では年齢が5歳刻みになっているので、10歳刻みになるように集計・合算したものです。
薬剤師になる魅力・やりがいとは?
薬剤師は医薬品を取り扱うだけではなく、医療の一部を担う重責がありますが、それだけに、やりがいがある職種です。ここでは薬剤師の魅力や、やりがいについて具体的に紹介します。
薬剤師の魅力
薬剤師の主な魅力は3つです。第一の魅力は「比較的高くて安定した収入」です。特に女性の場合は平均月収が36万円になり、一般の女性労働者よりも月収で11万円ほど高いことが大きな魅力です。また、医薬品を取り扱う仕事は景気に左右されず一定の需要があるので、一般企業のように売り上げが大きく変動することも少ないので、安定した収入を得られるというメリットもあります。
第二の魅力は「福利厚生が充実していること」です。薬剤師は女性が多い職業のため、子育てや介護、家事などと両立しやすい環境が整っている職場が多くなっています。病院や診療所でなければ、残業はなく夜間勤務もありません。待遇面の良さも薬剤師の特徴です。
第三の魅力は「転職に有利なこと」です。薬剤師の需要は高いので、薬剤師免許を持っていれば転職や再就職は難しくありません。女性の場合は結婚・出産などで職場を離れることがありますが、薬剤師の資格があればいつでも仕事に復帰できます。また、薬剤師は正社員だけではなく、パートやアルバイトでも高収入を得ることが可能なので、自分のライフスタイルに合わせた働き方ができるのも薬剤師のメリットです。
薬剤師のやりがい
薬剤師のやりがいは、人によってさまざまですが、主なものをあげると以下の2つです。1つ目は「患者の治療をサポートできること」です。薬剤師は病気やケガで苦しむ患者と接する機会が多い職業です。直接、病気やケガを治すことはできませんが、患者の疑問に答えたり、相談に乗ったりすることで不安を解消し、病状の改善をサポートすることができます。患者の病状が改善することで、喜びや、仕事に対する充実感も得られます。患者から感謝されることも多く、さらなるモチベーションの向上にもつながっていきます。
2つ目は「医薬品の進歩や改善に貢献できること」です。薬剤師は患者とコミュニケーションをとりながら、病状の変化や体調に問題がないかを聞き取ります。これは、薬の効果や副作用がないかを確認するための重要な仕事の一つです。そして、患者から得た情報を医師や製薬企業にフィードバックすることで、医薬品の進歩・改善に役立ちます。薬剤師は日々の仕事を通じて、医療の発展に貢献できるというやりがいを感じることのできる職業です。
薬剤師の就職先とは?
最後に薬剤師の主な就職先と、就職先別の特徴について説明します。
薬剤師が多い就職先は?
厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計概況」で薬剤師の就職先の割合がわかります。平成30年(2018年)の資料によると、薬剤師の施設別(就職先別)の就業人数と男女の割合は以下の通りです。
【施設別の薬剤師の割合】
薬局:58.0%
医療施設:19.3%
医薬品関係企業:13.3%
衛生行政機関:2.1%
大学:1.7%
介護保険施設:0.3%
その他:5.4%
【男女の割合】
女性:61.3%
男性:38.7%
薬剤師が従事している施設で一番多いのが「薬局(調剤薬局やドラッグストア)」で全体の58%を占めるほどです。薬局の就業人数は年々増加傾向にあり、今後も増えていくことが予想されています。これは、医薬分業が進み、大手の調剤薬局や大型のドラッグストアが増えているのが要因です。二番目に多いのが「医療施設(病院や診療所)」の19.3%です。三番目に多いのが「医薬品関係企業」の13.3%で、上位の3つで90%以上を占めています。薬剤師の男女別の割合は、女性が6割強、男性が4割弱となっており、女性が多い状況が続いています。
就職先別の特徴
薬剤師の仕事や待遇は職場によって大きく異なります。主な就職先別にその特徴やメリットとデメリットについて説明します。
薬局
薬局は薬剤師の就職先として最も多い職場です。給与の高さは薬剤師のなかでは平均的な水準ですが、病院に比べると残業や休日出勤が少ないのがメリットです。調剤、服薬指導、薬歴管理、疑義照会、医薬品の管理・販売といった薬剤師の仕事を一通り経験できるので、将来、転職しても薬剤師としての技術や経験を生かすことができます。病院から独立しているため、複数の医療機関の処方せんに触れられる機会が多くなります。
ドラッグストア
ドラッグストアは就職先が多く待遇も安定しています。給与が薬剤師のなかでも高い傾向にあるのが魅力です。ただし、ドラッグストアによっては、人手不足で勤務時間が長く、休日出勤が多い職場もあります。また、一般用医薬品の取り扱いが多くなるため、薬剤師としての専門性が発揮できないケースも多くなり、薬剤師として必要な技術や経験が身につきにくいといったデメリットがあります。
病院
病院は医療に貢献している実感を得られやすい職場ですが、残業や夜間勤務があるので、仕事内容は薬局に比べるとハードです。給与面も薬剤師の中では低い傾向があるので、収入の高さや待遇よりも、医療に貢献したい人や、やりがいを求めている人に向いています。都道府県が運営している病院に就職すれば、公務員扱いになるため給与も高くなりますが、募集枠が少なく採用されるのも難しいです。
製薬企業
製薬企業は給与が高く、研究開発部門は最も人気が高い就職先ですが、求人数が少ないので薬剤師の資格を持っているだけでは就職するのは難しいでしょう。製薬企業では海外の企業と専門的なやり取りを行う場合が多いので、英語力が高ければ就職には有利です。製薬企業でもMR(医薬情報担当者)であれば、就職は比較的容易です。ただし、薬剤の取り扱いよりも営業が主な仕事になり、調剤業務に関わることはほとんどありません。
まとめ
薬剤師は医療に貢献できるやりがいのある職業です。薬剤師の資格を持っていれば、転職に有利で再就職もしやすいというメリットもあります。正社員以外でもパートやアルバイトの募集も多く、ライフスタイルに合わせて柔軟に働くことが可能です。ただし、薬剤師の仕事内容は多種多様で、就職先によって異なってきます。この記事で説明した就職先別の特徴を参考にして、自分に合った就職先や転職先を探しましょう。
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